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1.立体裁断とは

 「立体」とは三次元的な形をいい、洋裁では、人間のボディーを意味します。「裁断」とはハサミで布を裁つことをいいます。すなわち、「立体裁断」とは人台に布を巻きつけて思いどおりの形に裁っていく服作りの手法で、この意味ではドレーピングと言われています。

 一方、平面裁断という用語がありますが、それは、平面で布を裁つことではなく、ドレスの展開図を紙に描くことを意味します。正しくは平面製図というべきですが、立体裁断という用語が新しく登場して、それに対比して従来の手法を平面裁断と呼んだものでしょう。

 用語の新旧は別として、衣服を作る手法としては立体を裁断と平面裁断とではどちらが先でしょうか。日本で洋裁にたずさわる人に聞くならばたいていは平面裁断という答えが返ってくるでしょう。ところが、欧米では違うかもしれません。

 古代ギリシャやローマの服にみるように、一枚の布を身体に巻きつけて、ひだを重ねるような着方はまさしくドレーピングです。その点では、日本の着物もドレーピングです。洋の東西を問わずはじめに立体裁断があったと言えます。身体にあてがって形を作ることはごく自然なことです。日本では巻きつけるという文化から進展しませんでしたが、西洋では衣服の形がしだいに身体の構造に近くなっていきました。

 身体にあてがって形を作り、それを平面に置いてみると展開図が得られます。平面にするとこうなるのだということが分かってしまうと、つぎには、平面から作図ができるようになります。三次元的なものを二次元的に考えることができるようになるのです。このように、西洋では、素朴な立体裁断と平面裁断をくり返しながら服の形と作り方を進歩させてきたのではないでしょうか。その過程では、あえて両者を区別する意味はなかったことでしょう。

 日本では、明治になって洋服の文化が入ってきたとき、その技術を取り入れるために展開図を解釈することからスタートしました。日本の洋裁は、素朴な立体裁断の試行錯誤の時期を経ないで平面裁断からはじまったと言えます。

 また、洋服が欲しければ自分で作る以外に手に入らなかった時代が戦後まで続きました。そのため、洋装店よりも洋裁学校の方が全国的に広がっていて、その役割は職業的な技術を磨くというよりも、家庭婦人の教養として自分の服を作ったり、子供の服を作ったりするためのものであったのです。そのために得られる技術には限界があって、自分の寸法に合わせた大まかな原型を平面で作成し、スタイルブックの通りに作図していく程度のものでした。

 このような平面裁断法は、日本の経済力が先進国に追いつき既製服の時代になると通用しなくなり、アパレルの現場では勢いドレーピングが主流となりました。そして、立体裁断といえばドレーピングというようになったわけです。

 前述したように、西洋では、立体裁断と平面裁断をくり返しながら服の形と作り方を進歩させてきた歴史があります。日本にはない…。そこに、新技術としてドレーピングが入り込み、平面裁断を古いものとしてしまった。このような経緯が進歩への努力を妨げているのではないかと思えます。

 アメリカでは、ドレーピングされた原型を平面で展開するパターンメーキングと呼ばれる手法が広く行われています。その方が、はじめからドレーピングするよりも、スキルによる差が少なく、品質の安定という見地から合理的だからです。

 まずは、立体裁断と平面裁断を対極的に区別することなく、「立体裁断とはドレーピングもしくはパターンメーキングによって実現される立体的な服作りである」と定義して、合理化への第一歩といたしましょう。